LOGIN「実は伝えたいことがあるんだ」
カリナはルナフレアの目をじっと見て言った。
「伝えたいこと? ですか?」
きょとんとした表情をするルナフレア。そんな彼女の手を取って自室のリビングへ向かう。そこで向かい合って座り、カリナは切り出した。
「実は、信じられないかもしれないが……、俺がカーズなんだ」
「え?」
当然の反応。目の前にいる少女はあのムキムキのカーズとは似ても似つかない。
さてどう説明すれば良いのだろうか? ゲームの中でもう一人作ったキャラが自分でカーズのサブキャラとでも言えばいいのだろうか? だが今のこの世界は現実である。本来NPCのルナフレアにそんな説明が通用するはずがない。まるで理解が出来ないだろう。
手頃な喋れる召喚獣を呼び出して説明してもらうか? いや、彼らも本来カリナの所有する召喚体であり、カーズとは何の縁もない。アカウント共有の倉庫は使えないので、カーズのコレクションのアイテムを見せるのもダメだ。妹という設定である以上、兄から譲り受けたと言われればそれまでである。
これはもしかして詰んだかもしれない……。
「あの、もしそれが本当なら何か証拠はありますか?!」
ルナフレアが必死な顔でテーブル越しに身を乗り出して来る。
「俺がカーズだという証拠……。サブキャラで同じアカウントだという証拠ならあるんだが……」
「サブキャラ? アカウント?」
やはりその手の類の説明は通用しない。彼女の今の反応からして、ここが本来VRMMOの世界だという認識すらないだろう。うむむ、と頭を捻る。
「ルナフレア、妖精族のルナフレアとの間の証拠……」
そのとき、はっと一つの考えが浮かんだ。同じアカウントであるということは同一人物が中にいるということにはなる。ならば……。
「君はカーズに妖精の加護を与えていただろう? 俺が同じアカウントの同一人物であるなら、もしかしたらその加護の更新が可能になるかも知れない。これはある意味賭けだ。もしできなければ……、俺はただの大嘘つきだ。笑ってくれてもいい。でもチャンスをくれないだろうか?」
そう言って右手の掌を広げて彼女の方へを突き出す。
「確かに、私はカーズ様に妖精の加護をお与え致しました。もしカリナ様がカーズ様と同一人物であるのなら、その加護の更新が可能になるかも知れません。試してみる価値はありそうです」
そう言ってルナフレアは左手の掌をカリナの小さな右手の掌に重ねた。頼むから上手くいってくれとカリナは心の中で念じた。
ルナフレアが念じると、互いの手が光に包まれる。それが収束する様にカリナの手の甲に神秘的な紋章となって刻み込まれた。
「更新……、出来ました。生涯でただ一人にしかこの加護を与えることはできないのに、カリナ様の中の存在はカーズ様と同一人物ということの証明になります」
ほっ、と緊張していた力が抜けてカリナはソファーに深く沈み込んだ。恐らくこれまで誰も試したことがない実験だったであろう。本来なら無理だったかも知れない。だが、このVAOが現実になり、キャラというアバターよりも中の人格が優先されたというような現象が起きたことによる奇蹟が起こったのだった。
「これで証明になったかな?」
そう言って手の甲を見た後、ルナフレアを見た。彼女の美しい両の翠眼からは涙が止めどなく溢れていた。
「漸く、お会い出来ましたね……」
そのままカリナの下へ走り寄って来た彼女はまるで子供の様にわんわんと泣いた。
「もう、どれだけ待っていたと思っているんですか?! 100年も留守にして、私がどれだけ寂しかったか、カーズ様にはわかりますか? それなのにこんな女の子になって帰って来て、妹だなんて嘘を吐くし……!」
カリナは自分よりも背が高いルナフレアを抱き締めた。
「済まなかった。知らない間にまさかそんな時間が経っているなんて思いもよらなかったんだよ。それにこんな事態になるのならカーズの姿で戻れば良かったと後悔した。でも今更どうしようもないんだ。ゲームのシステムって言っても意味がわからないだろうし、って言い訳しても仕方ないな。済まなかった。これからは必ずここに帰って来るよ」
「絶対絶対、冒険に出かけても必ずここに帰って来て下さいよ! 約束ですからね!」
流れる涙が、抱き止めたカリナの顔の上から零れ落ちて、カリナの顔を濡らした。しばらくの間、ルナフレアが泣き止むことはなかった。
◆◆◆ 久方ぶりの真の再会を果たした二人は、落ち着くと、もうかなり遅い時間だということに気付いた。明日からは任務がある。就寝しようと、出されたネグリジェの様な寝間着に着替えると、カリナは自分の巨大なベッドに横になった。
ある意味異世界転生をしてしまった今日一日で様々なことがあり過ぎた。もうこのまま寝てしまおうと目を瞑ったとき、寝室のドアがノックされた。向こうから声が聞こえる。
「カーズ様、ルナフレアです。今日はご一緒しても宜しいでしょうか?」
また自分がふっといなくなるかもしれないと思ったのだろうか。ルナフレアの声は不安そうに聞こえた。それを断るのは無粋だとカリナは思った。それに今の自分は女性体である、間違いは起こらないだろうということで、入室を許可した。
「構わないよ。今まで寂しい思いをさせたんだから」
「ありがとうございます」と言って自分の枕を胸に抱えてルナフレアが入室して来た。薄着の寝間着だが、部屋が暗い為あまり良くは見えない。むしろその方が安心した。
「またもしかしたら暫く会えなくなると思うと寂しくて……」
「ああ、気にしなくていい。隣に寝たらいいよ」
「ありがとうございます、カーズ様」
カーズの左隣のベッドに入って来たルナフレアはカリナの右手を取った。
「うん、でも人前では俺はカリナだからカーズ呼びは止めてくれよ。それに男の寝室に入るなんて真似をしたらダメだぞ」
「わかっています。これからはカリナ様と呼ばせて頂きますから。それにカリナ様以外と一緒に就寝しようなどとは思いませんよ。それに今は私よりも小さな女の子じゃないですか。何も起こりませんよ。ただご一緒したかっただけなのですから」
「そっか? なら俺で良ければ別にいつでも一緒に寝るくらいはしてあげるよ」
「あ、そうそう、これからは女の子なのですから「俺」は禁止です。ちゃんと「私」と言って下さいね」
「ああ、うん、善処するよ……。でも女言葉なんて喋れないぞ」
ネカマのエクリアなら喜んで演技するだろうが、カリナには難しい注文である。
「女言葉を使わなくてもいいのです、ただ一人称は「私」に変えるだけで。それに私もカーズ様が女言葉を使うのを想像すると笑えて来てしまいますから」
随分勝手な言い草だ。でもこれまで迷惑を掛けたのだからそれくらいの我が儘は聞いてやろうと思うカリナだった。
「わかったよ、俺、じゃなくて「私」はカリナだ。これでいいか?」
それを聞いて満足そうな笑みを浮かべたルナフレアはカリナの方を向いて目を閉じた。カリナも彼女の方を向いて、差し出された右手を左手で握った。
「おやすみなさい、カリナ様。明日は素敵な朝食を作りますからね」
「ああ、おやすみ、ルナフレア」
二人は手を握ったまま眠りに落ちた。
◆◆◆ 翌朝、目が覚めるとルナフレアは既に起きていて、キッチンの方から楽しそうな鼻歌が聞こえて来る。ご機嫌に朝食の準備をしているのだろう、開けてあった寝室のドアの向こうから美味しそうな匂いが漂って来る。伸びをしてベッドから起き上がると、カリナはそのままキッチンへと向かった。そこにはやはり笑顔で朝食を作るルナフレアの姿があった。入り口から声を掛ける。
「おはよう、ルナフレア。今朝はご機嫌だな」
振り返ってルナフレアが笑顔で答える。
「ええ、それは勿論です。カリナ様の為にお食事を作れるのですから」
その屈託のない笑顔を見ると、自分がカーズであると告白して良かったと思える。そのままキッチンのテーブルへと腰掛ける。まだ寝間着のままだ。
「できました。でもその前にお着替えを済ませましょう」
そう言ってご機嫌なルナフレアに昨日メイド隊が創作した衣装を着せられる。
「カリナ様は可愛らしいのですから、これからは着るものにも気を配って下さいね。また新作が作られると思われるので、それはこちらで管理しておきますから」
「うへぇ、あんまりヒラヒラしたのは苦手なんだけどなぁ」
その後用意された豪華な朝食を二人で食べると、ルナフレアに見送られて玉座の間へと向かった。カシューからの呼び出しがあったためである。
昨日の今日で何の用事だろうかと思い、カリナは城仕えの人々の視線を浴びながら玉座の間への廊下を進んだ。
ザルバディオ・カルマの消滅により、再び静寂が戻ったコロシアム。だが、それは恐怖による沈黙ではない。偉大なる勝利と、平和の到来を噛みしめる安堵の静寂だった。 舞台上の瓦礫が片付けられ、表彰式の準備が整う中、実況席から一人の女性が軽やかな足取りでレオン王の下へと駆け寄った。 実況のマグダレナだ。遠目には分からなかったが、間近で見る彼女の容姿は、自ら看板娘を名乗るに相応しい華やかさを持っていた。 艶やかなエメラルドグリーンのロングヘアが背中で揺れ、その肢体はイベントを意識した大胆な衣装に包まれている。身体のラインを強調する光沢のある黒いバニースーツに、引き締まった脚線美を際立たせる網タイツ、そして黒いハイヒール。 彼女は愛嬌たっぷりの笑顔で、魔法で増幅されたマイクを差し出した。「陛下! 会場のみんなに声が届くよう、これを使って下さい!」 レオン王は目を丸くし、豪快に笑った。「おお、これは気が利かなかったな。感謝するぞ、マグダレナ」 王はマイクを受け取ると、威厳に満ちた声を会場中に響かせた。「これより! アレキサンド剣術大会、表彰式を開始する!!」 王の宣言と共に、観客席からは割れんばかりの拍手が巻き起こった。舞台中央。真紅の戦装束、バトルドレスに身を包んだアリアと、泥だらけになりながらも凛と立つカリナは王の前に進み出ると、恭しく片膝をつき、その言葉を待つ。 レオン王はまず、アリアへと視線を向けた。「先ずは女神アリア殿。その凄まじい強さと、最後に見せた悪魔退治……感謝してもしきれぬ働きであった。この国を、いや、世界を救ったと言っても過言ではない」 王は近衛兵が捧げ持っていた、豪奢な装飾が施された一振りの剣を手に取る。「優勝の約束として、かつてこの国の英雄が使っていた『聖剣ジュノワーズ』を授与する。受け取られよ」 アリアは立ち上がり、その美しい剣を受け取った。だが、その表情に高ぶりはなく、あくまで涼しげだ。「私は女神として、当然のことをしただけですよ。それに、この大会に出たのも、悪に立ち向かえる力のある人間がどの程度なのかを見定めるためでしたから」 悪びれもせず言い放つアリアに、レオン王は一瞬言葉に詰まり、苦笑する。「そ、そうか……。だが、この国を救ってくれたことは紛れもない事実。深く感謝する」 王が深々と頭を下げると、アリアはに
熱狂と興奮がピークに達した決勝戦。だが、その余韻を無惨に切り裂くように、禍々しい闇が舞台を侵食した。『な……何が起こっているのでしょうか!? 決勝戦が終わった舞台に、突如として黒い影が……!』 マグダレナの悲鳴のような実況が響く。観客達もパニックに陥り、悲鳴を上げて逃げ惑う者、恐怖で腰を抜かし立ち尽くす者で会場は瞬く間に混沌と化した。「悪魔だ……! 本物の悪魔が出たぞ!」「逃げろ! 魂を喰われるぞ!」 その混乱の中、解説席のレオン王が立ち上がり、声を張り上げた。『うろたえるな! 皆の者、落ち着け! まさか悪魔が直接乗り込んで来るとは……! だが、近衛騎士団、すぐに観客の避難誘導を! 決してパニックになるな!』 王の必死の呼びかけも、圧倒的な恐怖の前では力を持たない。カリナ達の貴賓席も騒然となっていた。「あれが……、災禍六公……?! エデンを襲撃した悪魔の一味よ!」 カグラが目を見開き、震える声で叫ぶ。彼女の脳裏には、カシューから聞いた情報が警鐘のごとく響いていた。エデンを襲撃した悪魔の一味。エクリアが禁呪レベルの破壊魔法で消滅させたと聞いた一体。それと同じレベルの存在が現れたのだ。 以前ガリフロンド公国で死闘を繰り広げた災禍伯メリグッシュ・ロバス。目の前の悪魔が放つプレッシャーは、その怪物に勝るとも劣らない。そんな絶望的な存在が、なぜこんな場所に現れたのか。カグラは戦慄を抑えきれなかった。「とんでもない力を感じるぞ……あの悪魔は……」 カーセルが顔を青ざめさせ、剣の柄に手をかけるが、その手は震えている。カインも歯を食いしばった。「おいおい、冗談だろ……? あんなのが幹部クラスだってのかよ……」「空気が……重い。息をするだけで肺が焼けるみたいだわ」 ユナが胸元を押さえて苦しげに呻く。テレサも怯えたように身をすくませた。「あんな禍々しい気配……初めてです……」 エリック達の席でも、同様の動揺が走っていた。「まさか、こんなところにまで単身で乗り込んでくるとはな……! 正気じゃねえ!」 エリックが脂汗を流す。隣のディードが耳を押さえてうずくまる。「嫌な音……。世界が悲鳴を上げている音がする……」 「団長……あいつ、私達とは次元が違い過ぎます……!」 テレジアも絶望的な表情で首を振った。 舞台中央。闇の中から
熱狂と興奮が飽和するコロシアム。 準決勝第二試合の衝撃的な決着から一息つき、休憩終了の鐘が高らかに鳴り響いた。 魔法マイクを握りしめたマグダレナが、震える声で告げる。『さあ、皆様! いよいよ、この大会のクライマックス! 決勝戦の幕が開きます! これまで無傷で勝ち上がって来た両者が、ついに激突します! 一体どんな戦いになるのか、私の実況では言葉が追いつかないかもしれません!』 解説席のレオン王も、深く頷きながら前を見据えた。『うむ。英雄と謎の女神……今ここアレキサンドで今、最も注目される二人の激突だ。決勝に相応しい、最高のカードと言えるだろう』 カリナ達がいる貴賓席。カリナが静かに立ち上がった。その背中を、カグラがぎゅっと抱きしめる。「カリナちゃん……気を付けてね。でも、あの余裕ぶっこいた女神の顔色、変えてきてやりなさいよ!」 「ああ。ここまで来たら、全力でぶつかるだけだ。ありがとう、カグラ」 カリナはカグラの手を握り返し、仲間達の顔を見渡した。 エリアが拳を突き上げる。「行けーっ! カリナちゃん! 私たちの分まで!」「おう! 頼んだぜ!」「カリナ嬢ちゃん、武運を」「カリナちゃん、頑張って下さい!」 ロック、アベル、セレナの声援。更にルミナスアークナイツの面々も声を張り上げる。「カリナちゃん! 僕達も全力で応援するからね!」「負けんじゃねーぞ! カリナちゃん!」「カリナちゃん、ファイト!」「頑張って下さい、カリナさん!」 カーセル、カイン、ユナ、テレサ。そしてケット・シー隊員も「隊長、応援するにゃー!」と叫んでいる。カリナは彼らに力強く手を振って応え、舞台へ足を進めた。 一方、アリアがいる貴賓席。アリアは優雅に髪をかき上げた。「ようやく決勝ですか。さて、カリナさんがどうくるのか、楽しみですねぇ」 余裕の笑みを浮かべ、彼女もまた舞台へと向かう。その様子を、エリック達が見送っていた。「……いよいよだな」「ええ。カリナさんの剣が、あの方に届くのか……見ものです」「人間離れした戦いになるでしょうね」 エリック、テレジア、ディード。彼らもまた、固唾を飲んでこの一戦を見守ろうとしていた。 二人の戦士が、まばゆい陽光の下へと現れる。『まずは、エデンが誇る特記戦力にして、ザラーの街を救った可憐な戦乙女! 召喚魔法剣士、カリナァァァーッ!
熱い興奮が渦巻くコロシアム。 準決勝第一試合の余韻が残る中、実況のマグダレナが魔法マイクを握り直し、高らかに声を張り上げた。『さあ、息つく暇もありません! 続いて行われるのは準決勝、第二試合! 決勝でカリナ選手と戦うのは、果たしてどちらの選手になるのでしょうか!』 エリック達が陣取る貴賓席。出番を控えたテレジアが、静かに愛剣の点検を終えて立ち上がった。その背中に、先ほど敗れたばかりの団長、エリックが声をかける。「テレジア、行けるか?」 「ええ、団長。……敵討ち、とはいかないかもしれませんが」 「バカが、俺のことはいい。それより……あいつは得体が知れない。気を付けろよ」 エリックの表情は真剣そのものだった。長年の勘が、対戦相手であるアリアの異常性を警告しているのだ。「ええ、分かっています。これまでも全て一撃、それも目にも止まらぬ速さで試合を決めて来た異常な存在……。心して、行ってきます」 テレジアは凛とした表情で頷き、扉を開けて舞台へと向かった。 一方、アリアが陣取る貴賓席。アリアは軽く屈伸をし、伸びをしていた。「んーっ……。さてと。今回は純粋に剣技のみでやりましょうかね」 彼女は誰に聞かせるでもなく独りごち、楽しそうに笑みを浮かべて舞台へと歩みを進める。『まずは、予選からここまで、全ての試合を一撃のもとに決着させてきた謎の美女! 自ら女神を名乗るアリア! その真紅の装備に、今度こそダメージが入ることはあるのでしょうかーっ!?』 観客の視線が一斉に注がれる中、アリアが優雅に手を振って登場する。その余裕綽々とした態度は、これから死闘に赴く戦士のそれではない。まるで庭の散歩にでも来たかのようだ。『対するは、先程のエリック選手と同じ、武大国アーシェラのAランクギルド『ドラゴンベイン・オーダー』所属! 氷の魔法剣士、テレジアァァッ!!』 対面から、一陣の涼やかな風と共にテレジアが現れる。 淡い水色のセミロングヘアが風に揺れ、氷のような青銀のライトアーマーが陽光を反射して輝く。青い膝丈のスカートと白いブーツが、彼女の可憐さと剣士としての凛々しさを引き立てていた。 その長い耳と整った顔立ちは、彼女が高貴なエルフであることを示している。腰には、細身のレイピアに近い片手剣が帯びられている。 解説席のレオン王が頷いた。『うむ。剛剣のエ
準決勝を控えた休憩時間。貴賓席は、先ほどの熱戦の余韻と、次なる戦いへの期待に満ちていた。中央のテーブルを囲むように、シルバーウイングとルミナスアークナイツの面々が集まっている。「ここからは、カリナちゃんを一生懸命応援するよ! みんな!」 敗退したばかりのエリアが、真っ先に声を上げた。その表情に暗さはなく、親友の背中を押す決意に満ちている。ロックがいつまでも食べているサンドイッチを握り拳で掲げた。「もちろんだ! がんばれよカリナちゃん! エリアの分まで頼んだぜ!」「うむ、健闘を祈る。相手は未知数の強敵だが、カリナ嬢ちゃんなら大丈夫だろう」 アベルも深く頷き、どっしりとした声でエールを送る。テレサは、どこか夢見心地な様子で頬を紅潮させていた。「はぁ……カリナちゃんの戦いに集中できるなんて……眼福です。あの流麗な魔法剣技、一瞬たりとも見逃せません」「そうだね。僕達も一生懸命応援するよ。カリナちゃんの勝利を信じてる」 カーセルが穏やかに微笑む。カインはニカっと笑い、背負った槍の柄を叩いた。「まあ、カリナちゃんが負けるところなんて想像がつかねーけどな!」「でも、油断は禁物よ。あの大剣使いも中々やり手っぽいわ」 ユナが少し真剣な顔つきで釘を刺す。テレサも頷き、言葉を継いだ。「そうですね。それでも、カリナさんが勝つところを見たいです。私達の希望ですから」「隊長が負けるわけがないのにゃ! 最強なのにゃ!」 足元でケット・シー隊員が胸を張り、ふんすと鼻を鳴らす。カリナは仲間達の温かい言葉に目を細め、力強く頷いた。「みんなありがとう。ベストを尽くすよ」 その時、カグラがそっとカリナに近づき、周囲に聞こえないよう小声で囁いた。「……相手がもし『PC』なら油断はできないわ。最初から思いっきりやってやりなさいよ、カリナちゃん」「ああ、油断はしないよ。一合打ち合えば、それだけでわかるだろうさ」 カリナは静かに闘志を研ぎ澄ませる。相手が自分と同じ領域にいる存在かもしれないという予感が、心地良い緊張感となって全身を巡っていた。 やがて、休憩終了を告げる鐘が高らかに鳴り響いた。『それでは、準決勝第一試合を開始いたします!』 マグダレナの声が会場の空気を引き締める。二人の戦士が、それぞれの貴賓席から舞台へと向かう。『まずは、エデンが誇る美少女召喚魔法剣
休憩時間。カリナ達がいる貴賓席では、和やかなティータイムが始まっていた。「次はカリナちゃんとの戦いかー。……やっとだね」 大会スタッフが用意した紅茶を一口飲み、エリアが不敵な笑みを浮かべる。その瞳は、親愛なる友に向ける優しさと、一人の剣士としての闘争心が入り混じっていた。「ああ。楽しみだな、エリア」 カリナもまた、カップを置いて微笑む。言葉数は少ないが、その瞳の奥には静かな炎が燃えている。 そんな二人を見て、カグラが胸を張った。「ふふっ、覚悟しなさいよエリアちゃん。私の妹分は強いわよー?」 「それはもちろん知ってますよ、カグラさん。ずっと間近で見て来ましたからね」 エリアはニッと白い歯を見せる。「でも、勝つ気でいきます! カリナちゃんが強いのは百も承知。だけど、私もシルバーウイングの副団長として、簡単に負けるわけにはいかないのよ!」 「おう、威勢がいいこった! まあ、一太刀入れられたら十分だと思ってるけどな!」 ロックがサンドイッチを頬張りながら茶化すと、アベルも深く頷いた。「ああ。あのカリナ嬢ちゃんだ。勝つのは至難の業だろう」 「エリア、貴方の剣技の冴えならいい勝負になると思いますが、カリナちゃんのあの冷徹なまでの先読み……あれを崩せるかどうかですね」 セレナが頬を紅潮させながら、どこか楽しげに分析する。「もうっ! アンタ達、同じギルドメンバーなのに酷いわね!」 エリアが頬を膨らませると、全員がどっと笑った。その温かい笑い声に、ルミナスアークナイツの面々も加わる。「はは……僕もカリナちゃんには手も足も出なかったけど、エリアさんには期待してるよ」 カーセルが苦笑交じりにエールを送る。「そうよエリアちゃん! カリナちゃんは強過ぎるからね。一太刀入れれば実質勝ちみたいなものよ!」 「ああ。あの反応速度と技のキレは異常だ。エリア、気合入れてけよ!」 ユナとカインも、カリナの強さを認めた上でエリアを鼓舞する。テレサは穏やかに微笑み、二人を見比べた。「でも、勝負は時の運もありますから。どちらが勝つにせよ、素晴らしい試合を期待してます」 「ありがとう、テレサの言う通りだな」 カリナとエリアは顔を見合わせ、頷き合った。 ◆◆◆ 休憩終了の鐘が鳴り響く。『さあ皆様、長らくお待たせいたしました! これより三回戦、準々決勝の第一
数日後。エデン。 その白亜の城壁が見えてくると、カリナは張り詰めていた糸がふっと緩むのを感じた。上空から舞い降りたペガサスは、大きな翼を羽搏かせ、重力を感じさせない優雅な動作で城門の前に着地する。石畳に蹄が触れる乾いた音が、故郷への帰還を告げる合図だった。 カリナと隊員が背から飛び降りると、ペガサスは主人の無事を祝うように一度だけ高く嘶いた。「お帰りなさいませ、カリナ様!」 門番の衛兵達が、敬意と親しみを込めて槍を掲げる。彼らの笑顔は、ここが戦場ではなく、守るべき日常であることを思い出させてくれた。「ただいま。……お前達も、お疲れだったな」 カリナは背後を振り返り、ここまで付き
精霊の塔・最上階。 石床は砕け、空気は灼け、カリナの呼吸は荒くなっていた。剣を振るうたび、腕に重くのしかかる衝撃。魔法剣士として精霊と呼吸を合わせることができない純粋な剣技だけでは、それを振るう悪魔の膂力の前では分が悪すぎる。「くっ、はぁっ……!」 アグノス・レギウスの大剣が、横薙ぎに唸る。受け止めきれず、カリナは後退する。衝撃を殺しきれず、床に深い溝が刻まれる。一撃一撃が、確実にカリナの命を削りに来ていた。「終わりだ、召喚士カリナ。その剣では、ここまでだ」 アグノスがトドメの構えに入る。もはや回避も防御も間に合わない距離。絶望的な質量が頭上から迫る。 その瞬間―― カラ
精霊王の姿が消え、最上階に静寂が戻った。 だが、今のカリナが纏う空気は、塔に来る前のそれとは明らかに異なっていた。肌は内側から発光するように透明感を増し、その身に纏う魔力はどこまでも清浄で、かつ濃密だ。「……すごいにゃ、隊長」 物陰から恐る恐る出てきた隊員が、カリナを見上げて目を丸くした。「なんかこう、ピカピカしてるにゃ。神様みたいにゃ。近くにいるだけで身体の奥から元気が湧いてくるにゃ!」「ふふ、そうか? 自分ではあまり分からないが……確かに、身体は羽が生えたように軽いな」 カリナは自身の掌を見つめ、握りしめた。 精霊達の声が、五感を通してダイレクトに響いてくる。風の
世界樹の森を後にしたカリナは、ペガサスで休憩をはさみながら北上を続けた。 日が傾き、空が茜色から群青色へと変わる頃、眼下に霧に包まれた幻想的な街並みが見えてきた。目的の街、リシオノールだ。 街から少し離れた街道沿いにペガサスを降ろし、労いの言葉と共に送還する。そこからは隊員を連れて徒歩で南門へと向かった。 リシオノールは「霧の街」の異名を持つ。五大国の一つである陰陽国ヨルシカの和風の文化圏に近い影響を受けており、夕刻になると立ち込める白い霧の中に、瓦屋根や木造の格子戸といった和の風情を感じさせる建物が浮かび上がる。 石畳の道もしっとりと濡れ、軒先に吊るされた提灯の淡い光が、幻







